2026年9月19日から12月13日まで、東京・湯島天満宮の宝物殿で「暁斎が住まう湯島―描かれた神仏と寺社への思い―」が開かれています。幕末明治の絵師・河鍋暁斎(1831〜1889)が長く暮らした湯島に目を向けた展覧会です。

この記事を読むと、展示の中心にある親子合作の衝立《龍虎鷹山水図》がどんな作品か、そして「なぜ神社に残っているのか」という見方を持って、会場でも画像でも作品を眺められるようになります。美術の予備知識は要りません。

展覧会の基本情報

展覧会の情報は、美術手帖のニュース記事(https://bijutsutecho.com/magazine/news/exhibition/33039)とTokyo Art Beat(https://www.tokyoartbeat.com/events/-/Kyosai-Kawanabe-lived-in-Yushima/yushima-tenmangu-shrine-museum/2026-09-19)によると次のとおりです。

  • 会期:2026年9月19日〜12月13日
  • 会場:湯島天満宮 宝物殿(文京区湯島3-30-1)
  • 開館時間:10:00〜16:30(入館は16:00まで)
  • 観覧料:一般500円ほか

展覧会の趣旨は、暁斎が湯島地域に長く住んだことに着目し、ゆかりの施設の所蔵品を通じて、寺社に奉納された文化財に表れた神仏への思いを伝えることとされています。主な出品作には、湯島天満宮所蔵の《野見宿禰と當麻蹶速図》《入船図》、暁斎が日々の修練として菅原道真を描いた《日課菅公図》などが挙げられています。

《龍虎鷹山水図》は表と裏で作者が違う

展示の目玉の一つが《龍虎鷹山水図》です。美術手帖の記事によれば、湯島天満宮が所蔵する紙本墨画で、高さ145cm、幅162cmの衝立が一対になっています。

  • 表面:暁斎が描いた《龍図》と《虎図》
  • 裏面:息子・河鍋暁雲の《鷹図》と、娘・河鍋暁翠の《山水図》

暁斎と子どもたちによる親子合作で、文京区の指定有形文化財です。

ここで面白いのは、1つの衝立の表と裏で、描き手が父と子に分かれていることです。表に父の龍と虎があり、その裏に息子の鷹と娘の山水が置かれています。誰がどの面を担当したかという割り振りそのものが、作品の情報になっています(なぜこの割り振りになったのかを説明する資料は、今回確認した範囲では見つかっていません)。

暁斎という絵師の幅

暁斎の経歴は、国立アートリサーチセンターの人物情報(https://www.nact.jp/artcommons/user/detail/28015)や、三菱一号館美術館の展覧会案内(https://www.museum.or.jp/event/83865)で確認できます。

  • 1831年に下総国古河(現在の茨城県古河市)に生まれ、まもなく江戸へ移った
  • 浮世絵師の歌川国芳や狩野派の絵師らに学んだ(6歳で国芳に入門、9歳で狩野派に転じたと案内されている)
  • 幕末明治に「画鬼」と称されるほどの人気を得た
  • 歴史画、美人画、仏画、風俗画、動物画のほか、蛙・骸骨・妖怪などのモチーフや世相を風刺した戯画も手がけた

浮世絵の流れと、格式ある狩野派の訓練の両方を身につけたうえで、真面目な画題から風刺まで描き分けたことが、この絵師の特徴として挙げられています。龍や虎のような伝統的な画題を、親子3人の合作で仕上げることができたのも、こうした基礎の厚さがあってのことでしょう。

海外との接点もありました。国立アートリサーチセンターの人物情報によれば、1876年にフランス人収集家エミール・ギメらによって作品が海外へ伝えられ、1881年頃には英国人建築家ジョサイア・コンドルが暁斎に入門しています。コンドルは三菱一号館を設計した建築家で、日本美術の愛好家として暁斎に絵を学び、師の作品を海外に紹介しました(三菱一号館美術館の案内)。2015年にはこの師弟を取り上げた「画鬼・暁斎―KYOSAI 幕末明治のスター絵師と弟子コンドル」が開かれ、国内外の名品約120点が展示されています。

地域の神社に残る意味

今回の展覧会が面白いのは、美術館ではなく、神社の宝物殿が会場だという点です。美術館の展示では、作品は「作者の代表作」として切り取られがちです。一方、神社に奉納された作品は、その土地の信仰や暮らしとつながったまま残っています。

展覧会の趣旨にあるとおり、暁斎が湯島に長く住んだことが出発点です。湯島天満宮は学問の神・菅原道真を祀る神社で、出品作には《日課菅公図》のような、道真を描いた修練の作品も含まれます。住んでいた場所の神社に絵を納める、あるいは日々の修練として同じ神を描く。作品を「市場に出る商品」としてだけでなく、「暮らしている土地への奉納」としても見る視点が、この展示から得られます。

会場で見るときの3つの視点

展示を見に行く、あるいは図録や画像で確かめるときの視点を整理します。

  1. 表と裏を比べる:龍・虎(父)と鷹・山水(息子と娘)で、筆の運びや画面の構成にどんな違いがあるか。
  2. 墨だけで描く意味を考える:紙本墨画なので、色がない分、線と墨の濃淡の差が目立ちます。
  3. 置かれた場所を想像する:衝立は空間を仕切る調度です。神社のどんな場で使われ、人はどちらの面から見たのか。

どれも、会場の解説や所蔵者への問い合わせで確かめられる点です。この記事では断定せず、見るための問いとして置いておきます。

まとめ

《龍虎鷹山水図》は、父が表に龍と虎を、息子と娘が裏に鷹と山水を描いた、一対の衝立です。幕末明治に「画鬼」と呼ばれた絵師が、長く暮らした湯島の神社に、家族の手で残したものと読めます。展覧会は2026年12月13日までです。出かける前に、湯島天満宮の公式案内で開館日と時間を確認してください。