会議で意見を求められて、口にした直後に「もっと別の言い方があった」と悔やんだ経験はないでしょうか。この記事を読むと、会話がそもそもどれだけ速く進んでいるのかを数字で確かめたうえで、「話す前に考える」ための3つの工夫を、今日から試せる形で持ち帰れます。参照するのは、公開されている言語学の研究論文です。断定できない点は「とされています」と書き分けます。
会話は思った以上に速い
2009年に米国科学アカデミー紀要(PNAS)に載ったStiversらの研究は、5つの大陸にまたがる10言語の自然な会話を調べ、質問から返答が始まるまでの間隔を測りました。各言語で、話者が連続する質問350件ほどを特定して分析した、とされています。
全データの平均は、質問の終わりから約208ミリ秒後に返答が始まる、というものでした。0.2秒です。言語ごとの差は小さく、平均からおおむね250ミリ秒の範囲に収まったと報告されています。最も速かったのは日本語で平均7ミリ秒、最も遅かったデンマーク語でも約469ミリ秒でした。
つまり、私たちは相手が話し終えるのとほぼ同時に話し始めています。この速さのなかでは、相手の話を聞きながら返答を準備するのが普通で、「終わってから考える」余裕はほとんどありません。話してから後悔するのは、性格の問題というより、会話の仕組みの問題と見ることができます。
出典: Stivers T. et al. "Universals and cultural variation in turn-taking in conversation", PNAS 106(26), 2009(全文: https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2705608/ )
工夫1:返答の最初の一言だけを決めておく
間隔が約0.2秒だとすると、完璧な答えを用意してから話し出すことは現実的ではありません。そこで、内容ではなく「最初の一言」を決めておきます。たとえば「整理すると」「結論から言うと」「確認ですが」の3つを自分の型にしておく方法です。
最初の一言が決まっていれば、口を開いた後の数秒で続きを組み立てられます。論文が示すのは平均の間隔であり、全員がその速さで話すべきだという意味ではありません。型を一つ持つだけで、焦って先走る場面は減らせます。
工夫2:聞いている間に「前提」をメモする
相手が話している間は、返答を作る時間でもあります。このとき内容より先に、相手の話の前提を一行で書きとめます。「予算は変えない前提」「期限は今月中」といった具合です。
話す前に考える人がやっているのは、答えの精度を上げることよりも、前提のずれを早く見つけることだと考えられます。前提がずれたまま上手に答えても、会話はかみ合いません。前提を言葉にして確認する一言を最初に添えれば、速い会話の中でも、考えたうえで話した形になります。
工夫3:間をあける場面を自分で決める
すべての返答で間をあける必要はありません。数字や契約、評価のように取り返しにくい話題だけは、あえて数秒おきます。「少し考えます」と先に言えば、沈黙が不自然になりません。
先ほどの研究が示した通り、会話の標準は0.2秒前後の速い応酬です。だからこそ、間をあけるのは例外として目立ちます。例外を使う場面を事前に三つほど決めておくと、迷う時間そのものが減ります。
本についての補足
「頭のいい人が話す前に考えていること」というテーマの書籍が、2023年にダイヤモンド社から出ています(著者は安達裕哉さん、NDLサーチの書誌情報による)。この記事は書誌情報を確認しただけで、本の内容は引用していません。気になる方は、ご自身で手に取って確かめてください。
まとめ
会話は平均で約0.2秒の応酬で進み、日本語はさらに速いと報告されています。その中で考えて話すには、最初の一言を型にする、聞きながら前提をメモする、間をあける場面を決めておく、の3つが手がかりになります。まずは明日の会議で、最初の一言を一つだけ決めて試してみてください。