「ちゃんと説明したのに、議論がかみ合わない」。そんなもどかしさは、話し方の工夫だけでは解けないことがあります。この記事を読むと、話す前に確認したい3つの問いと、意見を整理する「主張・事実・論拠」の3欄メモの使い方が分かります。特別な道具は要りません。紙一枚で試せる内容です。

話し方の本とは別の入口がある

2023年4月にダイヤモンド社から出た『頭のいい人が話す前に考えていること』(安達裕哉 著)は、長く売れ続けた一冊として紹介されています。文藝春秋の記事によると、同書は話し方の技術ではなく「話の中身」、つまり話す前にどう考えるかに焦点を当てた本だとされています(出典:文藝春秋)。

ダイヤモンド・オンラインに掲載された関連記事でも、説明の型や雑談のルールを覚えるだけでは「考えたことにならない」という趣旨の主張が紹介されています(出典:ダイヤモンド・オンライン)。

ここで言えるのは、書評や紹介記事から読み取れる範囲の話です。本の中身を代弁するものではないので、詳しく知りたい方は原著をご覧ください。以下では、こうした考え方を日常で試せる形に落とし込んでみます。

問い1:相手は何を言いたいのか

文藝春秋の記事では、本の考え方の例として「相手は何を言いたいのか」をまず考える姿勢が挙げられています。自分が次に何を話すかで頭をいっぱいにせず、相手の話を正確に理解しようとする、という考え方です。

会議や面談で、相手が話している間に反論を組み立てた経験は多くの人にあるでしょう。その間、相手の話は半分しか入っていません。話す前の最初の作業を「自分の主張の準備」ではなく「相手の主張の確認」に置き換えるだけで、議論の出発点がそろいます。

試し方は簡単です。返事をする前に、相手の発言を一文で言い直します。「つまり、〇〇ということですね」と確認し、違うと言われたらそこで修正します。

問い2:自分の主張は、何を根拠に言えるのか

自分の意見を整えるときに使いやすいのが、論証の構造を示すトゥールミンモデルです。プレジデントオンラインの解説では、次の3つの欄を用意して順に埋める方法が紹介されています(出典:プレジデントオンライン)。

  • 主張:自分の考えや結論
  • 事実:主張を裏付ける客観的な数字や出来事
  • 論拠:事実と主張を結びつける理由

同記事の例では、飲酒を控えるよう勧める場面が挙がっています。主張は「お酒を少し控えない?」、事実は「1日あたりの摂取量が多いとがんリスクが上がるというデータ」、論拠は「1日1本に減らせばリスクは下がると思うから」。根拠を添えることで、ただ「減らして」と言うより説得力が増す、という説明です。

なお、トゥールミンモデルには、主張・データ・論拠のほかに裏付け・限定詞・反駁を加えた6要素で説明する資料もあります。用語も資料によって「根拠」「論拠」の使い分けが異なります(出典:日本情報システム教育学会の資料)。普段使いなら、まず3欄で十分です。

3欄のうち空欄が出る場所に注目してください。「事実」が空なら思い込み、「論拠」が空なら飛躍です。話す前に気づければ、その場で恥をかかずに済みます。

問い3:前提を疑っても、まだ言えるか

主張を書き出したら、論拠の欄を眺めて、自分でも当然と思っている前提がないかを確認します。先ほどの例なら、「1本に減らせばリスクは下がる」という論拠は、本当に誰にでも当てはまるのかを考えます。

トゥールミンモデルの6要素版に含まれる「反駁(主張が覆される例外的な条件)」は、このチェックに役立ちます。「どんな場合にこの主張は成り立たないか」を一つだけ書いてみてください。例外を自分から口にできる人は、相手の指摘にも落ち着いて対応できます。

3つの問いを一枚にまとめる

実際に使うときは、メモ用紙に次のように書き出します。

  1. 相手が言いたいこと(一文)
  2. 自分の主張/事実/論拠(3欄)
  3. この主張が成り立たない場合(一つ)

5分もかかりません。会議の前、メールを送る前、家族と大事な話をする前など、どこでも使えます。

型で終わらせないために

話し方の型は、覚えるとすぐ使えます。ただ、中身が空のまま型に当てはめると、考えたつもりになるだけです。ダイヤモンド・オンラインの記事が指摘する「型に当てはめるだけでは考えたことにならない」という点は、この意味で示唆的です。

話す前に紙一枚で整える習慣は、型を否定するものではありません。型に載せる中身を先に作る、という順番の話です。次に誰かと大事な話をする前に、3つの問いを一度だけ試してみてください。