仕事や暮らしを効率化していくと、いつの間にか「意見の違い」や「手間のかかるやり取り」が消えていることがあります。この記事を読むと、効率化で失われやすい「ざらつき」とは何か、公開されているインタビューから見える「違いを余白に変える」考え方、そして今日から試せる小さな意思決定のステップが分かります。

なお「ざらつき」は、この記事で摩擦や差異をひとまとめに呼ぶための言葉です。以下で紹介する発言は、すべて下記の公開記事の内容にもとづきます。

なぜ効率化は「ざらつき」を消してしまうのか

効率化とは、ムダを省いて同じ結果を速く出すことです。ところが、ムダの中には「少数意見」「手順への疑問」「前例のない案」のように、将来の価値の種になりうるものが混ざっています。

均してしまえば会議は短くなり、判断は揃います。その代わり、揃ったものしか出てこなくなります。効率を上げたつもりで、選択肢の幅まで削っていないか。これが最初に点検したい点です。

「異質さ」は心地よくないが、意味がある

慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏は、月刊経団連(2023年9月号)の連載「JOINnovator!」で、外科医とのプロジェクトにデータを扱う「異質な存在」として加わった経験を語っています。記事によれば、異質なものの出会いは通常お互いに心地よくないものの、そこに意味があるという立場です。

さらに、異質であるからこそ、現状の違いがお互いの「余白」になりうるとも述べています。違いは排除すべきノイズではなく、まだ何も描かれていない余白だという見方です。ここで問われるのは、その余白に何を描くかだと記事は伝えています。

違いの「量」には加減がある

では、違いは多いほどよいのでしょうか。同じインタビューでは、心理学の「82ルール」に触れ、大半は心地よいものでありながら、少しだけ異質性が混じる状態が好奇心につながると説明されています。

また、半歩先であれば心地よく受け止められても、三歩先では混乱しかねないという趣旨の指摘もあります。つまり、ざらつきは「あればあるほどよい」のではなく、割合を調整する対象です。対話によってずれを共有できるようにすることも大切だとされています。

「同じ空を見る」ことで共創にする

多様な人が集まると、同床異夢になって分断が生まれる可能性があります。宮田氏はそれに対し、「同じ空を見よう」という言葉を例に挙げ、イメージが違っても、未来に向けた重なりをつくることが大切だと述べています。

例として挙げられているのは医療の現場です。思惑や衝突があっても、患者のために最善の医療を提供したいという思いは共有できる、という話でした。違いを残すには、向かう方向だけは揃えておく。この二段構えが、摩擦を衝突ではなく共創へつなげる条件だと読み取れます。

データを使う場面でも、現場の違いを拾う

宮田氏は同じ記事で、新型コロナの感染拡大時にSNSを使った全国調査を行った経験にも触れています。医学界では正確性が保証されないものは相いれないとされてきたものの、神奈川県での先行調査で発熱とコロナの相関が分かり、学会の協力を得て30都道府県まで広げたといいます。

また、Business Insider Japan(2020年6月30日掲載)の連載では、コロナ初期にはデータの取り方すら確立されていなかったと振り返り、患者に対してデータを用いることは一つの介入であり、誤れば命にかかわるという認識を示しています。既存の枠に収まらない手法や、現場の違いを丁寧に扱うことが、データの価値を決めるという姿勢がうかがえます。

今日から試せる、違いを残す3つのステップ

以上の考え方を日常に落とすなら、次の3点が現実的です。これは上記の発言を踏まえた、この記事の整理です。

  1. 意見が揃いすぎた場面を一度止める。 全員一致のときほど、「反対の立場ならどう見えるか」を1問だけ出してみます。
  2. 異質さの量を決める。 新しいやり方を一度に3歩も進めず、半歩先から試し、ずれは対話で共有します。
  3. 向かう先を1行で揃える。 手段の違いを許す代わりに、「誰のために何を良くするか」だけは言葉にして共有します。

まとめ

効率化そのものは悪いことではありません。ただ、違いまで均してしまうと、新しいものが生まれる余地も一緒に消えます。異質さを余白と捉え、量を調整し、向かう方向だけを揃える。公開インタビューから見えてくるのは、そんな現実的な設計の考え方でした。まずは次の会議で、1つだけ「違い」を残してみてはいかがでしょうか。

出典

  • 月刊経団連「JOINnovator! ─DE&Iを楽しむイノベーターたち」同じ空を見るということ(2023年9月号): https://www.keidanren.or.jp/journal/monthly/2023/09_JOINnovator18.html
  • Business Insider Japan【慶應大医学部教授・宮田裕章2】研究室から医療現場へ。医師をデータで支える経験がキャリアの扉を開いた(2020年6月30日): https://www.businessinsider.jp/article/215375/