この記事でわかること

「アマゾンは人の手が入っていない、地球最後の原生林だ」——そんなイメージを持っている人は少なくないはずです。しかしここ数年、航空機からレーザーを照射して地表の起伏を測る「LiDAR(ライダー)」という技術によって、鬱蒼とした熱帯雨林の下に、円形や方形に整えられた巨大な土塁や運河の跡が次々と見つかっています。この記事では、ブラジル・エクアドル・ボリビアでの発見を整理しながら、「空っぽの密林」という思い込みがどう覆されつつあるのかを紹介します。

LiDARとは何か:森を透視する測量技術

LiDARは航空機に搭載したセンサーからレーザーパルスを地上に向けて連射し、跳ね返ってくる時間差から地形の起伏を測る技術です。木の葉の隙間をすり抜けて地面まで届いたパルスだけを拾い出し、樹冠のデータをソフトウェア上で取り除くことで、木を伐採せずに地表の凹凸だけを立体的に再現できます。これにより、地上を歩いても密林に埋もれて気づけないような、人工的な土塁や溝、道路の跡が浮かび上がってくるのです。

ブラジル・アクリ州:24,000〜30,000基という規模の衝撃

2026年7月、フィンランド・ヘルシンキ大学のマルッティ・パルシネン氏らの研究チームが、Nature誌に発表した最新の調査結果が注目を集めています(Nature Portfolio プレスリリース)。チームはブラジル南西部アマゾンの約4,497平方キロメートルを飛行してLiDAR測量を行い、432カ所の幾何学的な土塁跡を直接確認しました。このうち396カ所はこれまで知られていなかった遺構です。

さらに研究チームは、実際に調べた範囲のデータをもとに、同じ文化圏(「アキリ文化圏」と呼ばれる約18万3,000平方キロメートルの地域)全体を推計すると、土塁の総数は24,000〜30,000基におよぶ可能性があると発表しました。これは直接数えた数字ではなく統計的な推計値ですが、ピーク時(西暦100〜300年ごろ)の人口は125万〜300万人規模に達していた可能性があるとしています(同プレスリリース)。この地域はアマゾン全体の3%にも満たない面積ですが、その中だけでこの規模の痕跡が見つかったことが、研究者たちに衝撃を与えました。

エクアドル・ウパノ渓谷:2,500年前の「庭園都市」

もう一つの重要な発見が、2024年1月にScience誌で発表された、エクアドルのウパノ渓谷における調査です。フランス国立科学研究センター(CNRS)のステファン・ロステン氏の研究チームがLiDARで確認したのは、大規模な集落5カ所を含む合計15の集落跡でした(Science/AAASWikipedia「Upano Valley sites」)。

これらの集落は紀元前500年ごろから人が住み始め、西暦300〜600年ごろに放棄されたと見られており、少なくとも2,500年前にはすでに複雑な社会が築かれていたことになります。これは、それまで知られていたアマゾンの複雑な社会よりも1,000年以上古い記録です。ピーク時の人口については研究者の間でも幅があり、共著者の一人は1万5,000〜3万人程度と見積もる一方、10万人を超えるとする推計もあります。集落同士は直線的な道路や土手道で結ばれ、住居エリアと農地が計画的に配置されていたことから、「庭園都市(ガーデン・アーバニズム)」と呼ばれています。

ボリビア・カサラベ文化:22メートルのピラミッドと運河網

2022年にNature誌で発表された、ドイツ考古学研究所のハイコ・プリューマース氏らによるボリビア・モホス平原の調査も見逃せません(PMC掲載の論文全文)。この調査ではLiDARによって26カ所の集落遺跡が確認され、うち15カ所はそれまで知られていなかったものでした。中でもコトカ(147ヘクタール)とランディバル(315ヘクタール)という2つの巨大な中心集落を頂点に、規模の異なる集落が階層的に配置されていたことが分かっています。

集落の中心部には高さ22メートルにも達する円錐形のピラミッド状構造物や、U字形の建造物が築かれていました。さらに、運河や貯水池からなる大規模な水利インフラも整備されており、7キロメートルにおよぶ運河が近隣の湖からコトカまで水を引いていた跡も確認されています。この文化は西暦500年から1400年ごろまで、約4,500平方キロメートルの範囲で栄えたと推定されています。研究チームはこれを「これまでアマゾンで報告されたことのない、低密度型の都市文明」と位置づけました。

「手つかずの密林」神話が崩れる理由

これら一連の発見に共通するのは、アマゾンを「人の手がほとんど入っていない原生の自然」とみなす従来のイメージへの反証だという点です。土塁や運河、道路網は自然にできるものではなく、大規模な土木工事と長期的な土地管理の産物です。ボリビアやブラジルの調査チームは、ブラジルナッツやモモヤシといった有用植物の分布自体が、古代の人々による選択的な栽培・拡散の結果である可能性を指摘しており(PNAS)、アマゾン全域での大規模な人口が、森そのものの姿を長い時間をかけて形づくってきたと考えられています。

まとめ

樹冠の下に隠れていた土塁や運河、ピラミッド状の構造物は、木を1本も切らずに上空からのレーザー測量だけで見つかりました。ブラジルの24,000〜30,000基という推計、エクアドルの2,500年前の庭園都市、ボリビアの22メートルのピラミッドと運河網——いずれも「アマゾンは空っぽの密林だった」という思い込みを塗り替える手がかりです。まだ地表を覆う森の下には、レーザーすら届いていない場所がいくつも残っています。次にどんな痕跡が見つかるのか、今後の調査からも目が離せません。