ChatGPTやClaudeに文章を書かせると、誰が使っても似たような言い回しになる——そう感じたことはないでしょうか。この記事では、note発の作家・らっこ氏が提唱する「バニラ状態のAI」という診断と、そこから抜け出すために事前にAIへ読み込ませておく「文脈の束」の中身を整理します。あわせて、型を捨てて自分の言葉で書こうとした明治期の文章革命も参照しながら、AI時代に個性のある文章を書くための考え方を紹介します。
「バニラ状態のAI」という診断
らっこ氏は、note有料記事で1日に3,771万円、累計2億円を売り上げた実績を持つ作家で、その経験を『2億円を売り上げたプロが教える note×AI 最強の副業』(KADOKAWA)にまとめ、現在はnote専門のオンラインスクールを主宰しています(KADOKAWA公式サイト)。そのらっこ氏が名付けたのが「バニラ状態のAI」という言葉です。「何の設定もなく使うAIは、世の中の平均的な文章パターンをアウトプットします。バニラアイスのように悪くはないけれど、個性も際立ちもない」と説明されています(みんかぶマガジン)。バニラアイスがまずいわけではないのと同じで、AIが書く文章は読みやすくても、書き手の顔が見えないという指摘です。
AIが「平均的な文章」を出しやすいのは、AIの仕組みそのものに理由があります。生成AIは大量の文章から「もっともらしい続き」を予測して出力する仕組みのため、指示が抽象的なほど、多数派に寄った無難な表現に収束しやすくなります。裏を返せば、AIに渡す情報が具体的であるほど、出力もその人固有の色に近づいていくということです。
自分専用AIをつくる「文脈の束」5つ
らっこ氏が勧める対策は、新しいツールに乗り換えることではなく、AIに読み込ませる自分自身の情報を整理することです。具体的に挙げられているのは次の5項目です(出典同上)。
- 自分の経歴と逆境の経験——何を乗り越えてきたかは、他人には真似できない一次情報です。
- 読者にどんな価値を届けたいか——同じテーマでも「誰の何を変えたいか」が定まると論点の選び方が変わります。
- 自分がよく使う表現のクセ——語尾や比喩の好みなど、文章の「指紋」にあたる部分です。
- 避けている言い回し——使わない言葉を決めておくことも、文体を作る作業の一部です。
- 過去に書いた記事の例文——実際の文章そのものを読み込ませることで、AIが文体を模倣する手がかりになります。
本人の言葉を借りれば「ツール選びに時間をかけるより、自分の情報を整理することに時間をかけるべき」だといいます。この5項目をまとめてAIに渡しておくと、同じ依頼をしても出力が自分の文体に寄っていく、という考え方です。noteやブログ、KDPの原稿をAIと一緒に作っている人にとっては、プロンプトの言い回しを工夫するより先に着手できる、地味だが再現性の高い準備だと言えます。
型を捨てて自分の言葉で書いた先例
「共有の型に頼らず、自分の声で書く」という発想自体は、実は目新しいものではありません。江戸時代までの日本語の文章は、候文や雅文体といった共有の「型」で書かれるのが基本で、日常の話し言葉とは大きく隔たっていました。型は誰が書いても一定の格式を保証してくれる一方で、書き手個人の声を消してしまう性質も持っています。1887年、作家の二葉亭四迷が口語体で小説『浮雲』を書いたことをきっかけに、話し言葉に近い文体で書く「言文一致」が広がっていきました。この文体が現在のような書き言葉として定着するまでには、なお数十年を要したとされています。型を離れて自分の言葉を選び取る作業は、当時も一朝一夕にはいかなかったということです。誰かがすでに整えた型をなぞるか、自分の言葉を持ち込んで書くか——AIの「バニラ文章」から抜け出す作業も、根っこは同じ選択だと考えると見通しがよくなります。
情報整理という地味な作業が差になる
AIライティングの巧拙は、プロンプトの技巧やツールの新しさで語られがちです。しかしらっこ氏の指摘が示すのは、差がつくポイントはもっと地味な場所にあるということです。自分の経歴、価値観、言い回しの癖を言葉にしてAIに渡す——この準備を飛ばした人ほど、誰が読んでも同じに見える「バニラ文章」に陥りやすくなります。5項目すべてを一度に整理する必要はありません。まずは「避けている言い回し」や「過去の記事の例文」など、手元にすでにあるものから一つ、次に生成AIに何かを書かせる前に渡してみてはいかがでしょうか。