SNSやYouTubeには、極端に睡眠を削った状態で食欲がどう変化するかを撮影した動画が数多く投稿されています。エンターテインメントとしては面白い一方で、その背景には「眠らないと、なぜあれほど食べたくなるのか」という、れっきとした生理学的な理由があります。答えは意志の弱さではなく、睡眠不足が食欲をコントロールするホルモンのバランスを直接変えてしまうことにあります。この記事を読むと、睡眠不足がなぜ過食につながりやすいのかという仕組みと、忙しくて十分に眠れない日でも満腹感を保ちやすくする、研究に基づいた食べ方の工夫がわかります。

睡眠を削ると、なぜお腹が空きやすくなるのか

米シカゴ大学のスピーゲルらが2004年に発表した研究では、健康な若い男性12人(平均年齢22歳)を対象に、2日間だけ睡眠時間を4時間に制限した条件と、2日間10時間眠った条件を比較しました。その結果、睡眠を4時間に制限した条件では、食欲を抑えるホルモンである「レプチン」の血中濃度が平均18%低下し、逆に食欲を刺激するホルモン「グレリン」が上昇していました。あわせて主観的な空腹感や食欲の評価も上昇したと報告されています(Annals of Internal Medicine)。

一晩の徹夜だけでなく、習慣的な短時間睡眠でも同じ傾向

この変化は、実験室での極端な断眠だけに見られる話ではありません。米国のウィスコンシン睡眠コホートの参加者1,024人を分析した2004年の研究では、習慣的な睡眠時間が8時間の人に比べて5時間の人は、レプチンが15.5%低く、グレリンが14.9%高いという関連が確認され、睡眠時間が短い人ほどBMIが高くなる傾向も示されました(PLOS Medicine)。「今夜だけ徹夜する」ときだけでなく、普段から睡眠時間が短い生活を続けている人ほど、食欲を抑えにくい体質に近づいている可能性がある、ということです。

高カロリー・高糖質のものに手が伸びやすくなる理由

先のスピーゲルらの研究では、睡眠を制限した条件で、特に菓子やパン、パスタなど高炭水化物の食品への欲求が33〜45%も強まったことも報告されています(Annals of Internal Medicine)。睡眠不足の夜に甘いものやこってりしたものが無性に食べたくなるのは、単なる気分の問題ではなく、ホルモンの変化が食べ物の好み自体を変えている可能性がある、ということです。

少ない睡眠でも満腹感を底上げする3つの工夫

① たんぱく質を先に、しっかりと

たんぱく質を含む食事は、腸内分泌細胞にあるコレシストキニン(CCK)やGLP-1、PYYといった満腹感に関わるホルモンの分泌を促すことが、複数の研究をまとめたレビュー論文で示されています(PMC掲載レビュー論文)。忙しい朝や夜でも、卵・豆腐・鶏肉・魚など、たんぱく質源を一品加えることを意識すると、同じ量でも満足感が続きやすくなります。

② 野菜から、よく噛んで食べる

早稲田大学とキユーピーの共同研究では、野菜(キャベツ)をよく噛んで食べると、噛まずに食べた場合に比べて、食欲に関わるホルモンであるGIPやGLP-1の分泌が食後により強く刺激されることが確認されています(早稲田大学)。早食いは、満腹感が脳に伝わる前に食べ過ぎてしまう一因にもなるため、「野菜から、ゆっくり」という順番を意識するだけでも、体感的な満腹感は変わってきます。

③ 「眠れなかった日」ほど、量より満足度を優先する

睡眠不足の日は、そもそも食欲を抑えるレプチンが減っている状態です。カロリーだけを我慢しようとするより、たんぱく質と野菜を組み合わせて満足感の高い食事を選ぶほうが、結果的に食べ過ぎを避けやすくなります。

睡眠不足のときに食欲が暴走しやすいのは、意志の弱さではなくホルモンの働きによるものです。その仕組みを知っておくだけでも、「今日はよく眠れなかったから、食べ方を少し工夫しよう」という選択がしやすくなるはずです。